国立身体障害者リハビリテーション研究所
福祉機器開発部高齢障害者福祉機器研究所
室長  廣瀬秀行 先生






Ⅰ.車椅子の作り方
(1) 褥瘡のリスクからクッションを決定
(2) 身体寸法から椅子の形状を決定
(3) 運動能力から移動方法を決定


( 高齢者などの萎縮した臀部 )

( 健常者 )
坐骨結節などの点で支えている状態
スリングシートなどに座ることは、
板の上に座ることと同じ。
健常者が座って良いと感じる椅子が、
必ずしも良いというものではない。
※臀部の形状が異なることを意識


Ⅱ.褥瘡発生危険度チェックリスト
(1) Braden Scsle (14点以下で発生と判断)
(2) NPUAP分類 (圧迫して白くならない場合は褥瘡と考える)
(3) IAET (圧迫を除いて30分経っても消えない紅斑で判断)
(4) 廣瀬PT 30分座って紅斑が無ければ大丈夫という判断
=>車椅子に座る前にチェック→30分して再チェック


Ⅲ.クッションに関して
(1) 感覚障害が無く、除圧可能 座り心地のためのクッション
(2) 感覚障害が無く、除圧不可能 褥瘡防止機能を持ったクッション
(3) 感覚障害が有り、除圧可能
(4) 感覚障害が有り、除圧不可能 褥瘡防止機能を持ったクッションに、ティルト機能等を合わせて対応
※ 褥瘡のリスク:接触部が褥瘡を繰り返している部位は再発しやすい。(更なる除圧を検討)
 

〈 クッションの原理 〉 圧力を減らすためのクッションの原理
(例) 包丁・・・・・非常に狭い面での接点
 ○ 広い面で支える
 ○ 臀部の横で支える(臀部の沈み込みがある)
 ○ 厚さ
   リスクなし ― 5cm
   リスクあり ― 10cm



大転子部(大腿部の横)に褥瘡ができた例もある。これは、体のゆがみがあった例であった。


力学的証明・・・褥瘡がなぜできるのか。:反力と摩擦力で理解

前へずれようとする力(反力)と、そこに留まろうとする力(摩擦力)により、臀部の組織がつぶれて血流が止まる。変形した組織は、褥瘡を生じる。
(例) 浴槽中での体のすべり。
 
※身体拘束と褥瘡は同じラインで考えられる。(厚生省:10月~車椅子での褥瘡予防)
 


Ⅳ.座位能力の分類
(1) 手が離せる人 ========  座面がしっかりすればOK (図)
(2) 手をついている人 ========  横からの支えが必要。 (図)
(3) 自力で座れない人 ========  ティルトも必要。 (図)
(2);アームレストをしっかり握っている人。この人が、横からの支えを得ることで
   手を自由に使えるようになり、ADLが向上する可能性大。
(3);頭部支持の必要性も検討


Ⅴ.変形に関して
(1) 変形が無い :  最適な姿勢
(2) 見た目は変形があるが調べると無い :  PT/OTに何が原因かをみて
   もらう 必要あり
(3) 変形がある


Ⅵ.すべり座りに関して
・ 脊椎や骨盤の変形
・ 臀部の褥瘡
・ 前ずれ防止の為の縛りつけ
を生じる (図)


Ⅶ.ななめ座りに関して
・ 脊椎や骨盤の変形
・ 臀部の褥瘡
・ 身体の横倒れを支えるため、使えるはずの手がつかえない
を生じる (図)
(( チェック方法 ))
(1) 左右の骨盤の高さが水平ではない。
   (左右の上前腸骨棘・・・腰ベルトが止まる前方の出っ張った骨の部分)
(2) 股関節の一方が、伸展・内転・内旋している。
   (左に傾いていれば右の股関節が左より曲がらない状態で、
    臀部は左の接触部分が右より強く圧迫されている状態となる)


Ⅷ.マット評価 (臥位と座位での姿勢評価)
(1) 臥位 ・・・90度角度を変えて見れば、椅子に座った状態と同じ座位姿勢
         を模擬しながら肢位の評価ができる
(2) 座位 ・・・後方から支えてみることで、どの部位にパッドをつければ
         よいのか
        (手の動かし易さ・脊柱の垂直性/柔軟性をみれる)がわかる。
(図)
(図)


Ⅸ.シーティングの目的
(1) 座り心地 ; 長く快適に。どれ位座っていたいのか。
(2) 機能性 ; 手や足の操作を妨げない。
(3) 生理的 ; 褥瘡や脊柱の変形を抑える。
(4) 移動能力 ; 本人や介助者による移動が容易である。
(5) 外観 ; 見た目も気にならない。
(6) 介護 ; 介護しやすい。
   (1) ~(5) は、カナダの文献より。 廣瀬PTは、(6)を追加。


Ⅹ.ティルト
利 点

滑りを抑える
除圧ができる
欠 点

ヘッドレストが必要
机上作業が低下
車椅子操作が低下
結論・・・活動する方には不適。

なぜ、ずっこける?
原因 その1 ・・・ 座奥が広すぎる
    その2 ・・・ ハムストリングが短縮している
    その3 ・・・ 背がシート状
    その4 ・・・ ドーナツ様円座
    その5 ・・・ 介護時、奥まで座っていない
    その6 ・・・ 腹筋が弱い
    その7 ・・・ 車椅子走行時、足で操作している
    その8 ・・・ クッションが無く、痛さから逃れようとしている

関 連 法 律
※ 車椅子の選択・製作・改良には、PL法などの法律が関与。
  第3者の判断が必要な場合も。





― 続き:2Fにて ―
様々な車椅子クッションなどの現物を見たり触ったりしての体験講義


1.フットレスト上に足を乗せた場合と乗せない場合の圧の変化
● 垂直圧(単位:mmHg)の比較 FSA(Force Sensitive Application)使用

  足を乗せた時 > 乗せない時

  体が捻れていたり、ずっこけていたり、仙骨座りや尾骨座りの状態では、
  それぞれ圧のかかり具合が異なることを測定機器で確認。
● 坐骨での褥瘡、尾骨での褥瘡 ⇒ どちらがなり易いか ⇒ 尾骨
   少しでもなり難い方の姿勢(坐骨姿勢)を保ち、
  クッションを追加することで、より褥瘡はできにくくなる!
● 測定値は、200mmHgまでであるが、それ以上もあり得る。
  特に、ぱぁーっと出たときは、それ以上。ただ測定不可なだけである。


2.クッションのいろいろ
● ロホクッション ・・・ 1~2横指くらいの圧がポイント。
● JAYcareクッション ・・・ 車椅子のシートのたわみを考慮している形状。
● モールド型シート ・・・ 小児麻痺対応。但し、調整困難。
● ビーズ円座 ・・・ 普及度は高いが、ずっこけ姿勢を招き易い。
● その他
(図)


3.日本の車椅子がスゥエーデン製と大きく異なるところ
● アームレストが調整できないのが、日本の普通型。
  トランスファーの指導の違いなどの歴史的背景もある。

スゥエーデン製

アームレスト調整可能
アームレスト取り外し可能
日本製

アームレスト固定
日本では、軽くて丈夫なものをアルミ製で作る為、調節不可となった。これは、立ってトランスファーを指導する際、アームレストが支えとなり、この支持部分が動かぬようしっかりと固定される必要があったためと考えられる。
一方のスゥエーデンでは、トランスファーを座った状態で指導するため、アームレストは、障害になりうると考えられ、トランスファー時を考慮して取り外し式に設定された。


4.フットレストの調節について
● 日本製の車椅子でも、フットレストの調整は可能。
  ⇒ 調節ネジで調整する。その人に合わせて。
(図)


5. 質問コーナー (ばらばらに質問が出た。)
(質) ロホクッションの圧確認の方法は?
(答) 実際にクッションと臀部の間に手を入れて、(断りをいれてから)
    圧を自分の手の指で確認。
    MP関節(指の真ん中の関節)が曲がるくらいが、1~2横指 の圧である。

   ⇒ 実際その場で何人かは、お互いに確認しあっていた。


6. 感想
座圧測定FSA機器を用いた実践的内容で、とても勉強になりました。
多くの方々が、随分遠くからも集まっての特別講座は、クーラーが効かない 事をしばし忘れる程の非常に中身の濃い面白いもので、ご多忙中にも 関わらず私たち講習生の為にお時間を作っていただいた廣瀬先生に、 心から御礼申し上げます。