Lesson 20
介護職が行うシーティング援助の内容


@ その人に注目することからはじまる。
 シーティングは介護職が集団処遇で業務をこなす介護を行っている現場では何もはじまりません。機械的におむつを交換するだけでは、お尻の皮膚が発赤状態になっていることにも気づきません。意図的に皮膚状態を観察しようとしなければ、誰がシーティング援助を必要としているのか、サインを見逃すことになります。ただ新しい車いす・いす・クッションを導入しただけでは、その皮膚状態が改善されたのかどうかもわかりません。まずは、その人に注目する、きちんとみるべきことをみることが基本です。

A どんな人がシーティング援助を求めているのかを知ろう。
 折りたたみできるスリングシート(布張り)車いすに、クッションを使わずに座っている人はいませんか?長時間座りっぱなしの人、お尻や肩の痛みを訴える人、すべり座りになっている人、テーブルに前のめりになってくる人、何回も姿勢を直す必要のある人、自分で座りなおしができない人、座っている姿勢がくずれてくる人、クッションを脇に差し込んだり複数使って姿勢の崩れを止めようとしている人、すべり止めシートを座面に使っている人、テーブルを押して逃げようとする人、立ち上がろうとする人、お尻を何回も動かしたり肩を動かす人、フットレストから足がおちている人、フットレストに足がつかずに浮いている人、車いすの上でうたたねをしている人、食べにくそうだったり・食べものがこぼれる人、体重が重い人、体の大きな人、小さな人、やせている人、麻痺がある人、片足で床をけって走行している人、これらの人は何らかのシーティング援助を必要としています。

B どんな問題状況があるのか、客観的なデータをとって観察する。
 どんな解決すべき課題があるのか、その課題の背景にある要因を情報収集しましょう。本人の思い、願い、その人が一日をどこでどうすごしているか、座っている時間はどれくらいか、いつ、どんなふうに姿勢がくずれるのか、痛みを訴える声やサイン、皮膚の発赤や褥そうの有無、を把握しましょう。

C 皮膚状態を観察する。
 介護職はもっと皮膚状態をしっかりみましょう。臀部や背中の皮膚が赤くなっていませんか?赤くないとはっきりいえますか?おむつ交換時や入浴時にしっかり見ましょう。時には写真を撮影して客観的な記録をとることも必要です。もちろん写真撮影については、本人に許可を得ます。むやみに写真を撮影するのではありません。客観的に把握は大切なことです。時間の経過とともに色やサイズをきちんと記録し、その記録が解決の方向性を示してくれるときに写真をとります。例えばA車いすでは右肩甲骨下に発赤ができるが、B車いすでは発赤は生じないとか、このクッションでは1時間座っていても姿勢を保てて発赤も改善されてきた、というように、客観的データは本人の状態をどうすれば改善されるのかを示してくれます。
 実は、皮膚が赤くなっているにもかかわらず、痛みを訴えない人がけっこう多いものです。褥そうのリスクが高い人については、車いすに2時間程度座っていてベッドにもどったとき、介護職がしっかりと皮膚を見て、赤くなっているかどうかを確認しましょう。もし、長時間の座位保持後に赤みがあるのなら、すぐにシーティング援助をはじめる必要があります。同じ人に対して朝一番で皮膚を見て、赤みがあるのかを確かめるのもとてもよい方法です。臥位で寝ていて赤いのなら、寝ているときの分圧も考える必要があります。寝て起きたときは発赤がなく、座ったあとに赤くなっているのなら、座ることによって発赤ができたのだと確証できます。皮膚をしっかり見ることです。

D 今使っているのはどんな車いすか、どんな調整が必要かを確認しよう。
 今どんな車いすを使っていますか?シートが伸びきってたわんでいませんか?サイズはどうですか?座ったときに、座面にティッシュの箱がおけるくらい余裕がありすぎるのではないですか?フットレストの長さは合っていますか?フットレストに乗せたときに膝裏がどれくらい浮きますか?アームレストの高さは肘を支えるところにありますか?座面の高さは?走行方法によっても異なります。車いすを足こぎしている人だとすると、車いすの座面が高くてこぐために前にでん部がすべり出て落ちそうになっているのではありませんか?サイズを計りましょう。車いすと体のサイズがあっているかを見ましょう。といっても、介護職だけでなんとかできる座位保能力かどうかを見極め、介護現場ですぐにできる、フットレストの長さを合わせる(工具一つで簡単にフットレストの長さは調整できます)、アームレストの高さ調整、それ以上の調整が必要となると、介護職だけでは無理です。理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職や、シーティングのプロや福祉用具メーカーの支援を得る必要があります。どのレベルで誰とどうチームになればよいか、については後述しました。

E クッションはどんな人にも必要。
 次に、クッションについても注目しましょう。クッションを使っていますか?どんな素材のクッションですか?クッションカバーを開けて中の素材も見てみましょう。クッションの厚みは何センチくらいですか?クッションを使うことによってフットレストやアームレストの長さや高さが合わなくなっていませんか?現在使っているクッションでよいでしょうか?介護職はクッションについてもっときちんとした知識をもち、適切に使いましょう。
 クッションを使っていない人には、どんな人にも、まずクッションを入れるように援助しましょう。どんな人にもクッションは大事です。座面がしっかりとしていて、その上、分圧できてサポートできるクッションがよいものです。(要するに、底板がしっかりあること。その上で分圧できる素材のクッションがあるようにするということです。)

よくみかけるのは、ざぶとんですが、おすすめしません。自分で動ける人が畳や食堂の椅子などで、ざぶとんを使うのは問題ないでしょうが、布張りスリングシート車いすにざぶとんを組み合わせると、スリングシート車いすには底板がありませんから、シートがたわむと圧が集中してきます。自分で姿勢を直せない人だと、骨の変形にもつながります。よくありません。とりあえず、今ざぶとんしかないというのなら、自分で体を動かしプッシュアップできる人で、感覚麻痺のない人には、座布団でもOKです。動かせない人、プッシュアップできない人、感覚麻痺のある人には、分圧できる素材のクッションでなければなりません。
10センチ程度の厚みのあるクッションだと、お尻が沈み込んで圧を受ける面積が広くなる分、分圧効果があります。厚みのあるクッションは沈み込んだ側面でも分圧してくれます。薄いクッションよりも厚みのあるクッションを選ぶことです。
 円座は禁止です。円座使用時は皮膚が引っ張られ円座との接触部が虚血となります。部分的に圧が上がることにもなります。
○ クッションを使うことによって座面が上がると、それに伴い、アームレストの高さやフットレストの長さを調整しましょう。日本の車いすはフットレストが調節可です。でもアームレストの高さが変えられるものはあまりありません。これから購入するのでしたら、ぜひ、フットもアームも調整できる車いすにしましょう。
○ 骨の出っ張りにあわせて背もたれをへこませて全面で支えるクッションもあります。小さな空気セルがたくさん入っているクッションや、その人のお尻の形に合わせて形状をつくるクッションもあります。クッションにはいろいろな種類があり、新製品が開発されているので情報収集が欠かせません。
○ 空気圧で分圧する方式のロホクッションは、お尻がしっかりと沈み込み側面でも圧を分圧できるように、かといって底づきしない程度に圧を調整して使いましょう。空気がパンパンに入った状態では分圧できまません。時々、空気圧をみて、調整しなければなりません。
エアライト クッションロータイプ

F 褥瘡予防、ずれ、摩擦に関する知識をもとう。
 褥瘡のリスクとして皮膚が赤くなっているのに、それをおむつかぶれとして、ごしごしと拭いてしまっては褥瘡をひどくしてしまうようなことをしてはいけません。プロ介護職として恥ずかしいことです。褥瘡を防ぐことが介護職の職務ですから、介護職なら、どのような皮膚状態が褥瘡T度なのかを知識を持つべきです。皮膚をみます。そして皮膚が赤くなっていたら、圧迫を除いて30分後に再観察します。30分以内に消えない発赤はT度の褥瘡です。(IAETの分類)また、発赤部分を指で押して蒼白に反応しない場合は、やはり褥瘡T度です。(NPUAPの分類)すべらないシートを座面にしきこむと、確かに表面の皮膚は摩擦によってすべらないのですが、体の骨に近い部分で、ずれがおこっています。褥瘡のリスクが高い人にはずれが生じないように、座りなおしをするときも、押して引っ張るのではなく、2人介助で浮かせて座りなおしをしなければなりません。さらに、どの人にも、ベッドから車いすへ移乗介助したときには、プッシュアップや体を斜めに前傾させて圧を除去する介護が必要となります。どの人が褥瘡のリスクが高いのかを知らなければ必要な人に個別介護は行なえないのです。
 褥瘡発生予測スケールとしてブレーデンスケール(危険点は施設では17点)があります。活用しましょう。(ブレーデンスケールは金沢大学医学部保健学科真田弘美先生が作成している http://square.umin.ac.jp/ から引用して用いることができる。)

G まとめ。シーティング援助に関して行う、これからの介護
1)その人に注目すること。
2)座位能力分類を知ること。
3)介護職がもっとも本領発揮するのは、スリングシート車いすにクッションなしで長時間すわりっぱなしにさせないこと。脊柱の変形をおこさないように"予防"すること。
4)スリングシート車いすは移動のためだけに使って、椅子に移って座ってもらう。
5)どんなによい車いすだとしても、長時間すわりっぱなしは無理。人は同じ姿勢でいるのは苦痛です。ベッド、車いす、食堂の椅子、リクライニングの椅子、というように場を変える移乗をこまめに行うこと。
6)座りっぱなしではなく、どこでどう生活するのか、生活時間のすごしかた全体を見直す。
7)どんな人にもクッションを使うこと。
8)クッションを入れると座面が上がるので、フットレストの長さとアームレストの高さを調整する。(どんな長さが最適か「座位の基本知識」再読のこと)
9)フットレストに足を乗せると膝下に空間ができて臀部に圧が集中している場合は、移動時はフットレストに足をのせるが、座って静止しているときは、フットレストから足を下ろして床面につくようにする。その方が大腿の下まで圧が分圧される。もちろん、フットレストの長さを調整することができれば、静止時もフットレストに足はのせたままでよい。
10)移乗介助時は、必ずその人が奥まできちんと座れるように姿勢を整えよう。
11)立てる人には、立つ時、グリップのきく靴をきちんとはかせ、足元がすべらないように配慮しよう。(部屋の中で座ってくつろいでいるときには靴をはかないことを好む人も多いものです。靴をずっとはく文化を持たない人にとってはその方が生活空間として適しているかもしれません。)
12)プッシュアップ、座りなおし、座面をうかせて摩擦をとる方法を知り、介護の中で行なおう。
13)座りっぱなしになりがちなのは、移乗が大変だからである。移乗を楽にこまめに行なうために、スライディングボードやスライディングシートを使った座位移乗についてをもっと普及させよう。
14)施設の備品として新しい車いすを買うときは、アームレストの高さとフットレストの長さを変えられる車いすにしよう。座位移乗を普及するには、まずは車いすから。介護職の腰痛を防ぐためにもぜひ。
15)介護職は新しい車いすの使い方をよく知り、車いすの特性を生かした介護方法に変えよう。
16)フットレストがはずれる車いすは、はずして移乗しよう。せっかくはずれるのに、旧来の中足介助を行なうのでは、すねに傷をつくる原因になる。フットレストがはずれれば、ベッドに車いすをもっと近づけることもできる。
17)ティルトの車いすは、ティルト角度の操作方法や、リクライニング時はティルトをかけ、食事時はティルトをはずす、というように、どの場面でどの角度にするのか、新しい道具を導入したら使い方を熟知して介護にとりこむこと。