《 座位についての基礎知識 》

左の図は、よく見かける座位の一つです。
これは、果たして良い座り方といえるでしょうか。

どこがどのように悪いのか
そして、
どうしたら正しくなるのか
考えるヒントがここにはあります。

「座位の定義」は、「臀部と下肢で支持面に接して体重を支える姿勢」です。
作業姿勢の一部であり、休憩姿勢としての役割も大きいです。 しかし、 重力に抗して進化を遂げた人間にとっての座位は、脊柱のアライメントから見る限り四つ脚の時の形に 戻りやすく一部に無理がかかることを十分理解しておく必要があります。 脊柱はS字状ですが、座ることにより脊柱はS字状を保つことが困難となります。
一般的に横から見ると 下図のような状態に近くなります。 時間がたつにつれて内臓の圧迫により苦しくなったり、消化不良を生じます。 この姿勢が続くと、椎間板が前方の圧縮応力に押されて靱帯を引き伸ばし、 痛みの原因にもなります。 中年以降の弾性を失った椎間板ほど痛みを早く感じます。
一般に疲れにくいとされる座位姿勢は、臀部が背もたれから1〜1.5cm離れた姿勢であるといわれています。 それでも、立位の状態に比べると、脊柱のS字状が崩れ、立位よりも負担が大きくなります。   
座位は、立位より心拍数やエネルギー代謝率が小さくなり、無理が生じる姿勢です。

”背もたれがあるじゃないか・・・”とお考えでしょう。
⇒⇒ 時間とともに ⇒⇒
支えの部分が重要である。 支えが動き、姿勢が壊れる。

(もたれると、座面を滑る力が発生する。)
背もたれにもたれる。 滑る力がおしりを前に移動させる。
ちょっと想像してみてください。
棒を壁に立てかけたとして・・・・・
          棒は、寝かせて立てかけるほど滑って倒れやすい。
          棒を滑らそうとする力が、座る場合の「ずっこけ座り」を引き起こす。
ここまでは理解できましたか?・・次は、いよいよ正しい座位についてです。

食事の場合で考えましょう。いくつかのポイントがあります。
Q1:正しい座位とは?
:基本 :食事の時
1.椅子に深く座る。 少し浅めに座る。
2.背筋を伸ばす。 食事のマナーとしても背中を伸ばして
3.両肘は90度。 食事中はテーブルの上に手を置く為、肘は90〜100度となる。
4.大腿部は床に平行。  
5.膝の角度は90度。  
6.足裏は床にしっかりついている。  
7.目線はやや下。  
8.左右対称でバランスよく座っている。 基本的にはテーブルの下で脚を組まない。
9.背もたれにはもたれない。握り拳1つ分(5〜12cm)の空間。 テーブルと体の間に拳1つ分。背もたれと体の間にも拳1つ分。  
テーブルの高さによる食べやすさの違いは?
○テーブルが高すぎると・・・
 ・ テーブルの上に置く両手の高さが高くなり、肩への負担がかかる。
 ・ 肩を痛めやすい。姿勢の悪さによる血液循環機能低下や内蔵機能低下による
  消化の悪化をももたらす。食べにくいばかりか、食事に疲労を感じてしまう。  
○テーブルが低すぎると・・・
 ・ 背中を丸めて口を食べ物に持っていく姿勢となる。
 ・ 片方の肘に持たれかけて食べる等、バランスの悪い姿勢をとりやすい。
 ・ 行儀が悪いばかりか血液循環機能低下や内蔵機能低下による消化の悪化をもたらす。
*テーブルの高さは、腕を下にたらした時の肘の位置が目安(素足の状態で60〜65cm)

座面の高さによる食べやすさの違いは?
○座面が高すぎると・・・
 ・ 大腿部に圧がかかり、脚がしびれたりむくんだりする。食事に集中できなくなる。
○座面が低すぎると・・・
 ・ 臀部に圧がかかり、腰やおしりに負担が増える。
  その結果、腰を中心に疲労がたまり食事中腰が痛くなったりして食事に集中できなくなる。
*座面の高さは、膝裏の高さを目安にすると良い。

Q2: 評価はどうなの?  座面(シート)の高さをみる
○ 低すぎると膝裏が浮き脚が広がり背中が曲がりずっこけ座りとなり仙骨に圧がかかる。
○ 高すぎると足裏接地が困難。テーブルとの接触のおそれ。
前シートと後シートの高さをみてみよう。→「座面角度」を参照。
踵がついて体重をかけられる高さ(膝が90度)に調節しよう。

Q3: 評価はどうなの?  座幅(シート)をみる

狭すぎると安定しているが窮屈で、
動きを制限しやすい。
⇒ じょくそう(リスク)   
また、洋服の厚めのものは不適となる。

座幅が広すぎると横にずれやすく姿勢が
崩れやすい。
移動や取り回しが困難。
両サイドに手が縦に入るくらい(左右の大転子間幅+2cm)に調節しよう。

Q4: 評価はどうなの?  足置き(レッグサポート)までの長さをみる
履物の種類などにより異なるので、注意。
○ 短すぎると股関節が曲がりすぎ、膝と大腿部が上がり臀部へ圧力が集中し膝が不安定となる。
○ 長すぎると膝が下がり大腿部への圧力が集中する。 ⇒じょくそう(リスク)
足置き台の角度をみてみよう→「フットレスト角度」参照。
下腿長+履物の高さで調整しよう。

Q5: 評価はどうなの?  背当て(バックレスト)の高さをみる
座位時の体幹を保持して安定させる重要な部分。




注意:首までの安定を必要とする場合:
ヘッドレストに頭を押されて首が突出しないように。
○ 低すぎると体幹支持性が低下し、ずっこけ座りになり易い。
  又、背中も丸くなり疲労し易い(円背の原因)。体幹過伸展の場合は転倒のリスク有り。
○ 高すぎると肩甲骨や上肢を圧迫する。
角度をみてみよう。→「背当て角度」を参照。
肩甲骨の動きを妨げないよう脇の下から7〜10cmの位置に調節しよう。


Q6: 評価はどうなの?  背当て(バックレスト)の形状をみる
板状の背当てではどこかに圧迫を感じ、 隙間を生じる。
たわんだ背当ては、 不安定で支持の役目を果たさない。
個々の身体の状態に合わせて、 間単に調整できるものがある。

⇒ クッション

体幹の伸展を助けるクッションを使ってみよう。
バックレストのたわみを調節してみよう。

 

Q7: 評価はどうなの?  肘当て(アームレスト)の高さをみる
クッションの厚さ等に影響することに注意。
     
低すぎると姿勢が崩れ、姿勢を正そうとして力が入り疲労しやすい。転落(リスク)。座位保持困難。
高すぎると肩が上がり疲れやすく、痛みを生じやすい。肘部のじょくそう(リスク)。テーブルに近づけない。
肘が90度屈曲する高さ(肘頭+1.5cm)に調整しよう。

 

Q8: 評価はどうなの?  その他 (3つの角度)
○ 背当て(バックレスト)角度
・ 小さすぎると股関節過屈曲となり骨盤周囲が圧迫される。
・ 大きすぎると移動や取り回し困難となる。
車いすの場合は、一般用で90〜95度。
椎間内圧がもっとも減少するのは、110度。


○ 座面(シート)角度
・ 小さすぎると座位の耐久性が低下する。
・ 大きすぎると股関節過屈曲となり、仙骨周囲の圧が高まる。
前の高さー後の高さ=2〜3.5cm( 3〜5度 )で調節しよう。

○ フットレスト(足置き)角度
・ 小さすぎると足部の支持性が低下し、ずり落ち易い(リスク)。
・ 大きすぎると足が置けず下に滑り落ち、一部が圧迫される(リスク)。
 また、床面と接触する等のリスクも伴う。
シート角度と平行に調節しよう。


まとめ  ”正しい座位とは?”
これまでの学習を通して、
あなたの答えを出しましょう。


どこがどのように悪いのか

どうしたら正しくなるのか
もし、疑問に思ったり、わからなくなったり、質問したいことが出てきたら
ご連絡ください。・・・・・毎日頑張っているあなたの手助けに少しでもお役立つよう、
できる限りの答えを用意したいと思います。  やる気介護究会 (シーティングシステム研究会・PT木下)

参考文献・出典
・ 大津慶子・木之瀬隆編者、シーティングシステム研究会 50回記念誌、シーティングシステム研究会発行、2001
・ 廣瀬秀行・木之瀬隆:高齢障害者に対するシーティング活用の考え方とその実際、理学療法、16(5)、1999
・ 廣瀬秀行:座位姿勢の評価、シーティングシステム研究会50回記念誌寄稿、
 シーティングシステム研究会発行、p89−93、2001
・ 木之瀬隆:モジュラー車いすとシーティングシステム、作業療法ジャーナル.33、335−340,1999.4
・ 井原秀俊・中山彰一・井原和彦訳、図解≪関節・運動器の機能解剖≫
 (上巻ー上肢・脊柱編)、協同医書出版、1994
・ 岩倉博光監修、田口順子編著、冨田昌夫他共著、理学療法士のための運動療法、金原出版、1993
・ 日本建築学会編、コンパクト建築設計資料集成<住居>、丸善株式会社発行、2000
・ 小林志奈他:高齢者の車いす、第16回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会テキストU、2002
・ 松尾清美他:脊髄損傷者の車いす、第16回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会テキストU、2002
・ 脳性小児まひ児者の車いす、第16回日本リハビリテーション工学協会車いすSIG講習会テキストU、2002
・ 日本福祉大学企画事業室、標準型車いす用「座位姿勢保持キット」の開発
 ーADL向上を考慮した事例検討ーより 「キット構成図」資料、2002