Lesson 14
介護職とシーティング、なぜ学ぶ必要があるのか、その根拠


縛らない介護をすすめる具体的知識と技術として、やる気介護研究会では「シーティング」に着目しました。 シーティングとは、「シーティング技術は利用者の椅子・車いす上で目的に合わせた座位保持を行うことで、自立的生活を支援し、介護負担の軽減をはかる欧米より導入された技術」(木之瀬隆 第61回シーティングシステム研究会レジメより)です。

身体拘束の中でも、座ること、ベルトなしで座ることに着目することとした
シーティング Seating
目的に合わせてよりよく座ること
座位保持を行うこと

 シーティングによって、痛みがなく、快適に、うまく座れるようになる。視界が広がる。両手を使えるようになる。上手に食べられるようになる。車いすを楽に自走できるようになる。本人の自立支援を促し、生活の質を大きく変え、介護負担を軽減する。

 シーティングでは座位保持機能の評価や福祉用具を選択してフッティングしていきます。そのことについては、介護職だけでやれることには限界がありますが、それでも、介護職だからやれることがあるのです。「道具に頼らなくても」、新しい車いすがなくても、介護職がその気になればシーティング援助に関して働きかけることができるのです。座れなかった要介護者がうまく座れるようになれば、顔が前を向きます。視界が広がり、両手を使えるようになります。上手に食べられるようになり、車いすを楽に自走できるようになります。シーティングは本人の自立支援を促し、生活の質を大きく変え、介護負担を軽減します。
 シーティング援助というと、体がずれ落ちて座れない人をうまく座らせる援助を思い描きがちですが、このレベルの人のシーティングをなんとかしようというのは、シーティングのプロでも大変なことであり、介護職だけでどうにかなるというものではありません。
 介護職がもっとも本領発揮するのは、スリングシート車いすに長時間すわりっぱなしにさせないこと。シーティングのプロの支援がなければどうしようもないような脊柱の変形をおこさないように"予防"するレベルの援助です。介護職の強みは日常をよく知っていることにあります。声を出せない人の痛みや不快感を表情やサインで読み取れます。いつも、よく知っている人でなければ、どれが快を示すサインでどれが不快を示すサインかはわからないでしょう。それがわかるというのが介護職の強みです。国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所の廣瀬秀行氏が研究会で、「椅子はぼくたちが作ります。介護職には、どのクッションがよいのか、その椅子でよいのか、を評価してもらいたい。この椅子によって、この人の機能がどう変化したのか、生活がどう変わったのか、日常生活を見てよく知っている人しか評価はできない。介護職にやってもらいたいことです。」と言ったことがあります。
 確かに、シーティングを行うのに、車いす・椅子・クッションの選択とフィッティングは欠くことができないことですが、新しい福祉用具が届いただけでは生活は変わりません。新しい道具を生活の中で使えるようにする援助が必要ですし、どんなによい車いすやクッションでも、長時間その上に座らせっぱなしでは、座位は崩れるのです。介護職はシーティングを学ぶ必要があります。
  残念なことですが、介護現場では、座ること=車いすに座ること、とらえ、クッションもなく、サイズも合わない車いすに長時間座らせておくことがまかり通っています。お尻が痛くて立ち上がろうとする人に、「立つと危ない」といい、時にはベルトやテーブルで縛りつけていることもあります。介護職は、座位がくずれているのを支えようと、やたらにクッションをつめこみ、何回も引き上げています。座位がくずれる人に対する介護方法をそれしか知らないからです。ベルトで縛らないで、どう座るか、について知識と技術を学びましょう。