Lesson 9
転倒してケガや骨折になると大変。訴訟を起こされると賠償責任? いいえ、縛らない介護をきちんと行なうことが大事です。


 転倒して事故を引き起こすと危険だから、ベッドに閉じ込めておく、歩かせない、何もさせない、というのでよいはずがありません。利用者本人は意思を持った尊厳される人であるはずです。施設のとるべき道、介護職の行うべき介護は、「歩かせない」ということではありません。その人が今どんな生活をしているのか、いつどのようにして転倒する危険があるのか、それに対して、その人と向き合う介護がなされているかをまず考えましょう。ベッドに入れてベッド柵で囲んで出られないようにして放っておく、介護職は誰も何もタッチしない。オムツ交換のときにそばにいるだけ。こうゆうことは誤っています。関わりを変えなければなりません。

法的問題への対処
 訴訟は誰でも避けたいものです。施設長が事故を起こさないようにと強く願うのも当然です。ですが、絶対に事故を起こしてはならないから、安全配慮義務にもとづき、縛る、というのは本末転倒です。プロの介護職なら、縛らないで、縛ること以外の方法でいかに安全を配慮するか、をケア計画として作成し、それをきちんと行うことが専門性なのではないかと考えます。訴訟を恐れる施設長に示唆を与えてくれる、弁護士で日本社会事業大学社会福祉学部教授 若穂井先生が執筆された論文の一部を紹介します。興味ある方はぜひ図書館などで全文をお読みください。

若穂井透「介護事故をめぐる法的責任―身体拘束ゼロ作戦と関連させてー」
月刊総合ケアVol.12,No.5,pp35-39,2002. より一部抜粋
  「特別養護老人ホームなどで、例えば転倒事故が発生し入所者が死亡したとしても、介護スタッフに「故意」または「過失」がなければ、介護スタッフの不法行為責任も社会福祉法人の契約責任も生じない」「アセスメントにもとづくケアプランをよく説明し、身体拘束に依存しない介護について十分に理解して協力してもらえるように施設側は最大限の努力をしなければならない

 例えば、転倒の危険があるAさんに対しては、「Aさんの転倒の危険にある背景要因を情報収集し、どうやればリスクを減らせるかをアセスメントして、個別介護を行う。それをきちんと記録に書く。そして、このような安全配慮は行いますが縛り付けておくことはしません。十分配慮しますが、絶対に転倒することはないとはいえません。と本人や家族に説明し、同意を得る。日々の状況を記録に書く。」こと。このように、転倒というリスクをとらえた上できちんと介護にとりくんだという実態をきちんと示すことが大切なのです。そうすれば、たとえ転倒事故が発生しても、過失を云々されることはないはずです。