Lesson 7
身体拘束への意識を高めましょう。そのためには学ぶことです。


 あなたはどちらの介護職でしょうか。「介護職の仕事は転倒を防ぐことだから絶対に歩かせてはならない」と思うのか、それとも、「歩けば確かに転倒の危険がある。だからといって縛りつけて歩く機会を奪うことは許されない。縛らずに転倒をどう防ぐかを考え援助することが私たちの仕事」と思うのか、縛ることについての意識が実践を規定します。
 抑制廃止運動のリーダーである上川病院の吉岡らは、医療を遂行する上でやむをえない抑制を、「縛る」といい、抑制帯、腰紐、すべての紐類を捨てることからはじめたといいます。縛るという言葉はきつい言葉ですが、私たち介護職がしていることを気づかせてくれます。(吉岡充・田中とも江編著『縛らない看護』医学書院1999年)本教科書の題名も、身体拘束ではなく、「縛らない介護をすすめるためのインターネット版教科書」としたのは、吉岡氏らの趣旨に共感したからです。
 何が身体拘束なのかLesson3で学んでください。身体拘束禁止規定があることを知りましょう。ヒモで縛ることだけが身体拘束なのではなく、車いすベルトで縛ることも、椅子に座っている人にテーブルを押し付けて立ち上がれないようにすることも、介護着といわれるつなぎ服を着せることも、薬で動けなくすることなど、もすべて含みます。身体拘束についての意識を高めるためには、問題意識を持つこと、そのためには学ぶこと不可欠です。意識が実態を変えるのです。
 例えば、Lesson1の設問で「車いすのフットレストから片足がすべり落ちてしまう人がいた。落ちないようにヒモで足を固定するのもよい」を○と答えた人は、@縛ることへの意識が低く、A縛る以外の方法を知らない、のです。もしかすると、「本人のためになるのだからヒモで固定することもやむをえない」と考えたかもしれません。足を固定するという表現を読んでそれほど抵抗感を感じなかったのかもしれません。でも、固定する=縛る=拘束です。足が固定されることだけに注目する人は「足が落ちるその人、個人」を見ていないのです。だから、足が落ちなければ、それが正解ととらえ、「落ちないようにするには・・・そうだ、ヒモで固定することも一つの方法だ」と、短絡的に考えたのでしょう。介護専門職がこれでは困ります。「なぜ足が落ちるのか、その人をよく見て、足が落ちる背景要因を把握すれば、縛る以外の介護方法が見えてきます。
 フットレストから足が落ちる背景にはいろいろな状況が予測されますが、なぜその人の足がフットレストから落ちるのか、情報収集しながら考えることから"縛らない介護"がはじまります。例を述べます。@いつ、どうやって足が落ちてくるか、一日追いかけて状況観察する。A靴下を脱がせてフットレストがあたって皮膚が赤くなっていないか、傷になっていないか、皮膚を観察する。B本人に痛みの程度やこの状況をどうしたいと思っているかをたずねる。Cなぜ足がフットレストから落ちるのかを考える。仮に、骨折の後遺症で股関節が90度には曲がらないのであれば、当然足は前に出てくるでしょう。膝関節の拘縮もあるかもしれません。もしそうなのだとすれば車いすを本人の合わせて調整すればよいのです。フットレストの角度や長さを変え、足が乗るフットレストのプレートを大きいものにして、足全体が乗るようにしたり、角度をつけたりすれば、足を縛らなくてもきちんと足はフットレストに乗るようになるでしょう。もちろん、長時間その状態で座っていれば足を動かして足が落ちてくることが予測されます。足を乗せなおしたり、どれくらいの時間なら座位が可能かを観察して、どこでどうすごすのか無理ない生活の場を整えるのが介護職の仕事です。