デンマーク・ネストベッツ訪問報告 - ケアマネジメントを中心に
東洋大学 高野龍昭  
  デンマークの福祉・医療の体制
  • 基本原則(出典:鬼崎信好他編著『世界の介護事情』中央法規、2002、pp86-89)
    ①普遍主義
      ニーズを有する国民は労働能力の有無にかかわらず、社会保障給付と社会サービスを受ける資格がある
    ②租税主義
      社会保障と社会サービスの財源は税金による
    ③公的責任
      行政は社会保障と社会サービスの提供に責任を負う
    ④活発な社会的方策
    社会的保護の手段は積極的でなければならない
    ⑤地方分権
      権限は地方自治体にある(法律は国が策定)
    ⑥地域性の尊重
      社会的保護の仕組みを実行する場合、地方自治体は独自の判断を行う権限を有する
    ⑦サービス利用者の参画の権利
      利用者は社会的保護プログラムに参画する権利
    ⑧包括的アプローチ
      利用者が抱える問題状況は多面的視点から理解されなければならない
    ⑨連携と協働
      行政は企業や各種の民間組織と連携した取り組みを実施する
  • 実施体制
    ※自治体:「アムト amt(県)」と「コミューン kommune(市)」
    アムト:入院医療、障害者福祉、地域計画、環境保育、交通、高等学校教育
    コミューン: 高齢者在宅ケア、高齢者施設ケア、プライマリー・ケア、保育、住宅、義務教育
    ※費用
    財源:福祉・医療・年金の財源は租税
    自己負担:在宅ケア・プライマリー・ケア・入院医療は無料、外来での薬剤は自己負担あり(一定額まで)、高齢者住宅の居住費は応能負担
  •   ネストベッツでのケアマネジメント(1)
    今回の訪問の主眼ではないため、詳細な調査や担当者の聴き取り自体は行っていない市の行政担当者 J.Pedersen氏からの聴き取りによる

  • 概要
     一般的には次の3つの次元で成立する
    1)サービス量の査定(介護保険制度:要介護認定)
    2)具体的なサービスのパッケージ化(時間・種類・事業者の決定)の決定(介護保険制度:ケアプラン作成)
    3)サービスの提供
    ネストベッツでは、この1)・2)を Visitatorer という自治体の職員が担当する
    →自治体の責任でケアマネジメントが実施される
  •   ネストベッツでのケアマネジメント(2)
  • サービス量の査定(介護保険制度:要介護認定)
     ・レベルは4段階
       →コミューンでその規準も決定
     ・サービス量は、個別のニーズによってヴィジテーターが決める(全体の統括責任者がおり、予算・サービスの配分の権限を持っている)
      例)そうじができないと認定→65㎡までの掃除を1時間/隔週
       →一律的制限はない
  •   ネストベッツでのケアマネジメント(3)
  • 具体的なサービスのパッケージ化(時間・種類・事業者の決定)の決定(介護保険制度:ケアプラン作成)
    ・「利用者の参画」+「徹底した情報公開」に特徴
    例)「サービス・デコレーション」という自治体が保障する在宅ケアのサービスの例、量、内容、時間、手順を示した文書が示され、市民もそれを見ている→それに基づいて利用するサービスをヴィジテーターが高齢者とともに決める
    →ケアマネジャーの恣意的判断は困難
  •   ネストベッツでのケアマネジメント(4)
  • サービスの提供
    ・サービスデコレーションに記載されている事業者は、公立:85%・民間:15% ・これについては、市の委員会の年1回の承認が必要 →ケアマネジメントは行政が実施するものの、サービスの事業者は「公私ミックス」
  •   ネストベッツでのケアマネジメント(5)
    ネストベッツでのケアマネジメント
      ネストベッツでのケアマネジメント(6)
  • 市長 H.Jensen氏
    「デンマークは高齢者・障害者の生活保障が自治体の責任で行われている。それは、税金が高い国家体制で、その財源が自治体に移されてもいるから可能だ。また、だからこそ、福祉サービスへのお金の使われ方、またその品質が市民の注目を一番集めている。ネストベッツの自治体の予算全体の70%が福祉に使われているのだから。」
  •   ケアの保障
    ケアの保障 ケアの保障
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    デンマークの国民年金(年額)
    デンマークの学生からの質問:日本の高齢者ケアは介護保険で利用者1割負担。デンマークは無料。と言うことは、日本の高齢者は年金をたくさんもらっている『お金持ち』なのか?
      私の問題意識・・・
    私の問題意識
  • 介護問題の発生の二大局面!
    ①時間経過による「自宅」での問題の発生
    ②疾病の発症・再発・増悪による「医療機関(入院)」による問題の発生

    →①については、地域での介護問題の発見システム、発見時のケアマネジャーの力量が問われるのでは!?
     →②については、医療機関の退院支援策、そこへケアマネジャーの参画と調整力が問われるのでは!?
  •   ネストベッツ病院での退院計画(1)
    退院調整を担当している看護師 A.G.Larsen氏への聴き取り

  • 病院の概要
      アムトが運営主体
      主に65歳以上の患者が入院:およそ300床???
      平均在院日数は10日から2週間

    わが国の「パス」との違いはなにか?
    わが国のパスは、私見では、地域ケアとの連動性、利用者(患者)本人の主体的参画、多職種協働という面から、その取り組みはいまだ不十分 !
  •   ネストベッツ病院での退院計画(2)
  • 入院時の取り組み
    ※入院時に患者の身体的な状況だけではなく、住居の状況、生活状況、活用可能な在宅ケアサービスを調べ、退院時に活かす(患者が在宅ケアのノートを持参することもあり、有用である)。
    ※入院から24時間以内に退院計画を策定する(法律で規定されている)。
    ※退院計画は利用者(患者)本人と一緒に決めるものである。当然、Ns、ソーシャル・ゾンヒ・アシスタンス(病棟にも勤務している:わが国での看護助手)、PT、OT、Drなどチームによる協議も経る。
  •   ネストベッツ病院での退院計画(3)
  • 入院後から退院までの取り組み
    ※策定した退院計画について、2日に1回の会議で常に遂行状況と見直しが必要な状況を協議して、フレキシブルに対応する。
    ※退院の基準は、利用者(患者)の社会的な状況も踏まえ個別的に決める。身体的な基準を画一的に適用するのではない。
    ※退院前にはOTが利用者(患者)とともに自宅訪問をして問題の有無を確認する。
    ※入院中にコミューンのヴィジテーターに来院を求め、協議の上で退院日を決める。
    ※退院時には、自治体規定の書式により訪問看護やホームヘルパーなどへの細かな情報提供を行う。
  •   ネストベッツ病院での退院計画(4)
  • その他
    ※少なくとも病棟のNsは、在宅ケアサービスの活用方法を熟知している(患者は広域から集まるが、その診療圏のなかのことは概ね分かっている)
    ※元々住んでいる自宅に退院することに決まった場合、コミューンにはその準備を3日間で整える義務がある。高齢者住宅・施設に移る場合には14日間となる。それを超える場合には、コミューンが病院に費用(1日あたり1500Dkr=およそ30000円)を支払う。
    →こうした特徴的な取り組みが自宅・地域への退院を促進させ、ひいては、このことが24時間在宅ケアを地域で展開できるひとつの要因とでなているのでは?