日本社会事業大学 渡辺裕美 |
2001年3月、高齢者ケアサービスについてフィンランド視察をしてきました。
フィンランドでは地方分権がすすみ、市町村が責任をもってケアサービスを行っています。組織としては医療系サービスと福祉系サービスの管理部門は別々ですが、協働することがすすめられ、医療サービスと福祉サービスの統合、インテグレーションが現在の課題です。
施設を視察して驚いたのは、医療系ナーシングホームでは日本と同じ4人部屋やベッドしかない部屋があったことです。日本でいう安全ベルトも使われていました。要するに車椅子に座っている人をベルトで縛っている様子を見たのです。本人や家族に説明して同意した場合にそうしているという説明でしたが、北欧でこのような場面を見たのは残念でした。
福祉系施設では、トイレとシャワーがついた個室が標準仕様です。施設ではなく、家です。介護を必要とする人の居住場所という発想が底に流れています。電動ベッド以外は、家具やカーテンなどすべてご本人の使い慣れたものです;紫系でコーディネートされたすてきな部屋もありました。
痴呆性グループホームでは、明るくのんびりと暮らせるように空間がつくられ、介護職もゆったりと介護していました。決して走り回ることはありません。
フィンランド視察でとてもよかったことの一つは、生き生きと働いている介護職員と出会ったことです。若い人が「仕事が好き、痴呆性高齢者に援助するのに"ユーモア"が大切よ」と笑顔で言っていたのが印象的でした。
在宅ケアは、1日4回、深夜帯も必要とする人には訪問サービスを行っていました。ケアプランは利用者と話し合って作られます。ホームヘルパーは地域を分担して訪問しています。具体的な様子は写真で御覧下さい。
※写真 数枚 と 説明文 |
|
|
|
痴呆性グループホームの居室
トゥルク市にあるグループホームでは13人の人が暮らしています。
それぞれの居室はもちろん個室です。バス・トイレも部屋にあります。 |
痴呆性グループホームの居室 |
自分の部屋がわかりやすいように、居住者の若い頃の写真がドアにかけてあります。 |
|
|
|
グループホームのリビングルーム |
ゆったりとした時をすごすお年寄り |
グループホームの台所 |
|
|
|
グループホームにあるサウナ(サウナはフィンランド人にとっての風呂です。ほとんどの家にはサウナがあります。デイサービスセンターにもサウナは必需です。) |
グループホームにある古いラジオ(昔を思い出し、心を落ち着けます) |
お酒(家族が持ってきます。誰のお酒かわかるようにラベルに名前があります。) |
|
|
|
グループホームで薬を配剤するケアスタッフ |
医療系ナーシングホームの4人部屋(ベッドがあるだけです) |
医療系ナーシングホームで使われている拘束帯(見つけたときは驚きました) |
|
|
|
医療系ナーシングホームで使われている床走行リフト |
デイサービスセンターの昼食 |
デイサービスセンターのプール |
|
|
|
デイサービスセンターの美容院 |
ホームヘルパーの着替え介助 |
居室 |
|
|
|
記録するホームヘルパー |
服薬介助するホームヘルパー |
キッティラのホームヘルパーステーション |
尚、フィンランドの高齢者ケアサービス基礎知識をまとめましたので、興味がある方はお読みください。
「フィンランドケアサービスの基礎知識 概説」
1.フィンランドを知るための基礎統計
フィンランドは森と湖の国。日本とほぼ同じ面積に人口517万人(1999年)1平方kmあたりの人口密度は17人。(ちなみに日本の人口密度は324人。)
約93%がフィンランド語を話し、6%がスウェーデン語を話す。法律は、すべてのフィンランド人が母国語でサービスを受ける可能性を保証している。ちょうど訪問したトゥルク市はスウェーデン語だけしか話さないフィンランド人が住む、2つの公用語を持つ市町村であったので、市のガイドブックや道路標識などはすべて2ヶ国語で書かれていた。スウェーデン語しか話さない人のための社会福祉サービスはNGO団体が市から委託されてサービスを行っていた。
宗教は85%がキリスト教のルーテル派である。5つの県、452の市町村がある。
65歳以上の高齢者人口767168人、14.8%。
平均寿命―女性81歳、男性73,3歳(1999年)。
死因―第1位は循環器疾患、第2位は悪性新生物、第3位は呼吸器疾患
出生率11.3(人口1000人に対しての出生、1999年)子どもの数の平均1.82人(17歳未満の子どものいる家庭を母数として、1999年)
世帯構成―結婚夫婦のみ30.6%、同棲夫婦のみ11.1%、結婚夫婦と子ども37.7%、同棲夫婦と子ども7.1%、母子世帯11.5%、父子世帯2.1%。全世帯中の独居は16.4%。
就労状況―多くの女性が働いている。15歳~64歳の女性の内、就労している人の比率は、71.2%である。1ヶ月の平均収入は男性2242ユーロ( 1ユーロ113円とすると253346円)女性1840ユーロ(1ユーロ113円とすると207920円)
1週間38.6時間就労する。失業率は9.3%。
年金―国民年金は65歳から支給される。国民年金+職域年金を受給している人85%、国民年金だけの人14%、職域年金だけの人1%。1995年12月の年金平均額は、1ヶ月あたり4957マルカ(1マルカ19円とすると94183円)
2.トゥルク市(人口17万人)の概況
1) 保健医療サービス
保健医療サービスは、市内を8区分(北1、北2、南1、南3、西1、西2、東1、東2)し、 それぞれの地区に1~2ヶ所のヘルスセンターを拠点として行なわれている。ヘルスセンターの数は、北1地区に2ヶ所
,北2地区に3ヶ所,南1地区に2ヶ所,南2地区に2ヶ所,西1地区に1ヶ所,西2地区に2ヶ所,東1地区に1ヶ所,東2地区に2ヶ所である。
ヘルスセンターの機能は、診療と予防と訪問看護である。ヘルスセンターは市民が病気になったときに最初に受診するプライマリーヘルスケア、第一次医療機関でもある。住民の居住区にあるヘルスセンターが担っている。トゥルク市が雇用しているヘルスセンターに勤める職員は、医師及び歯科医師150人、看護職380人、理学療法士や作業療法士などその他65人、である。大きなセンターには医師12人もいるが、医師1~2名配置のところもある。時間予約で診療が行われているが、緊急診療も行なう。電話相談は毎日、保健医療センターの医師が、訪問看護が必要かどうかを責任を持って判断し、指示する。訪問看護はヘルスセンターを拠点として行なわれている。また、在宅医療機材やオムツなどが必要な市民のところへは、ヘルスセンターから配られる。
例えば風邪をひいたとき、市民は自分の居住区にあるヘルスセンターへ電話をかけて予約をとって診療を受けるのであるが、もし、そのヘルスセンターがいっぱいで診療してもらえないとなると、別のところに電話をかけて診てもらえるセンターを自分で探さないとならなかった。この問題に対して診療空き情報を一元化させ、即時に予約がとれるようなシステムをつくる試みがすすんでいるという。
さらに高度医療が必要な場合は、ヘルスセターから紹介状が書かれ、二次医療を担う中央病院や大学病院に行くことになる。医療費は1993年まで基本的に無料であったが、現在は本人負担金がかかるようになった。
2)トゥルクの病院・福祉施設
(1) 病院
トゥルク大学病院、市民病院で入院加療
(2) ナーシングホーム
日本でいうところの老人保健施設に近い、医療よりの施設。
ショートステイもある。
(3) 高齢者の家
生活介護中心の施設。スタッフ常在。重介護への対応可。ショートステイもある。
(4) サービスハウス
暮らしやすい家という感じ。台所も浴室もすべて整っていて、施設の側に隣接しているところもある。呼べば介護スタッフがかけつける。
(5) 痴呆性高齢者のグループホーム
10人程度の生活の場。
(6)通所デイサービスセンター
地域に開かれた通所施設。手芸やアクティビティなどができる。美容院やフトケアも受けられる。銀行も時に出張する。サウナやプールがある。リハビリも受けられる。
(7) 通所痴呆性デイサービス
10人程度の痴呆の人のための通所。小さな専用の部屋。朝食も昼食もそこで食べる。入浴(サウナ)を職員が介助する。月曜から金曜日にオープン。ヘルパーが車にいっしょに乗って連れてくる人や、タクシーに乗って独りで来る人もいる。毎日来る人や週1日の人など頻度はまちまち。
3)どこで暮らすべきか入所判定を行なうSAS
福祉サービスは、大きく市内を4分割(東西南北)して提供されている。4つのSAS
(Selvitys,Arviointi,Sijoitus)グループがあって地区ごとに動いている。SASのメンバーは、医師、看護職、ソーシャルワーカー、ホームヘルパーなど5~10人から成る。週1回開かれる。要介護の市民をアセスメントして、どこでケアを受けるのが適切かを考えるグループである。入所判定委員会に近いものと理解するとよい。SASで使われることを目的に研究開発されたのがRAVA.INDEX(別表 )である。例えば、RAVA.INDEXで1・5ポイント以下であれば、在宅ケアが適当とし、ポイントが高ければ、そのポイントに応じてサービスハウスが適切か、ナーシングホームが適切か、その人の状況に応じたタイ プの入居施設をすすめるのに役立つという。RAVAについては別項で述べる。
3.トゥルク市の24時間ホームケア
市町村行政は直営の公的サービスだけでなく、民間企業やNGOなどと契約しながら市民ヘサービスを提供しているが、90%は直営の公的サービスであり、中核を担っている。ちなみに、トゥルク市では、介護を必要とする人へに対しては、家事援助も含めて一体としてホームヘルプサービスが公務員ヘルパーによって提供される。しかし、家事援助サービスだけでよい人に対しては、民間企業による掃除サービスなどが提供される。また、NGOの活動としては、癌患者を支える会が1日複数回の訪問看護を行ったり、スゥエーデン語だけを母国語とする住民へ対する福祉サービスを担うNGO団体がある。このように、公的セクター、NGO,民間セクターが協力しながら市町村サービスを担っている。
トゥルク市はホームケアスタッフとして、約600人のホームヘルパーと約100人の看護職を雇用している。市内を37のホームケア区分に分割してサービスを提供している。訪問看護とホームヘルプサービスは協働しながら24時間ホームケアサービスを行い、利用者や家族を支えている。
1)ホームケアで行なわれている援助
医療ニーズや社会的ニーズのアセスメント
血圧測定や血糖値検査や尿検査
インシュリン注射やターミナルケア期の痛みコントロール注射
週1回、薬を配剤ボックスにセットして管理すること
傷の処置
点眼
介護
2)訪問看護とホームヘルプサービスの24時間の流れ
ホームケア勤務時間シフトは、日勤(朝8時~16時)、遅番(午後13時~21時)、夜勤(夜21時~翌朝7時)の3シフト勤務である。
日勤(朝8時~16時)は、ヘルパーは市内37地区に分かれて動いている。看護職はヘルスケアセンターを拠点に在宅を訪問するし、ホームヘルパーは37ヶ所のヘルパーステーションを拠点として訪問する。看護職とホームヘルパーは別々のところからやってくるので1つのチームとして動いているわけではない。しかし、訪問看護とホームヘルパーは定期的に集まってミーティングをすることもあるし、携帯電話で連絡をとりあい、連絡しあっている。
遅番(午後13時~21時)は、看護職(Assistant Nurse)1名とホームヘルパー4~5人が勤務している。37地区それぞれが遅番勤務を組むのか?遅番になると複数地区を分担して広い地区を受け持つのか、要するにトゥルク市で何人のヘルパーが遅番帯に働いているのかは不明である。ともかく、この時間帯に働く人の数が足りないとホームケア部門の責任者Rittaが言っていた。
夜勤(21時~翌朝7時)は、市内2分割(マウラ川を境にして)で、それぞれが1チーム、要するに2チームが巡回している。1チームの構成は、看護職(Assistant Nurse)1名とホームヘルパー1名の2人。2人いっしょに車で巡回訪問している。
日勤帯の人が夜勤をすることはない。夜勤専門の人が雇われている。ちなみに3月16日の夜勤チーム1の勤務者は夜勤専門の人と、夜勤者が休みなのでいつもは日勤帯に働いているけど今日は夜勤だという人のペアだった。夜勤専門で働く人になぜこの時間帯を選ぶのか?と聞くと「週7日働いて7日休みになる。休みがまとまってとれるので夜勤をしている。」と言っていた。
3)ホームケア利用料金
利用料は無料ではない。世帯人員数と、所得と、介護度(月に何時間介護を必要とするか)の3つの要因に応じて利用料金がきまる。
4)サポートサービス
配食サービス、掃除、洗濯、移送サービス、散歩や買い物等を助けるエスコートサービスなどがある。公的サービスとしてのホームヘルプサービスは、より重介護の人へ配分する動きになってきている。具体的例としては、重介護の人の家ではヘルパーは掃除を行なうが、介護を要しないで掃除だけしてほしいという人には民間業者をすすめるという。
|
|